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本人の書いた小説・二次創作などを置いていこうかと。 現在は川上稔氏の著書、都市シリーズの二次創作の予定
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2006/06/22
――過去は遠のき、現実は流れ、未来は迫り来る。私は何が出来る。

記録「サンマルコ広場にて」

 
 星の海が頭上にある。
 その中心に位置する月が、威尼斯の町並みを蒼く照らし出す。
 12時を回り、深夜の域に入った町並みは酷く静かだ。
 人の気配はなく、ただ潮騒が遠く響く。
 広場からは屋台などが撤去されて代わりに資材などが積まれている。
 ふと、閑散とした広場の中央に光が生まれた。
 石畳の上に生まれた光は軌跡を残しながら、直径10ヤードほどの円陣を描くために走り出す。
 始点と終点が重なり円陣が完成すると、光の軌跡はその輝きを増した。
 輝きに照らされながら、浮かび上がるのは小さな丘のような影。
 徐々に光が収まっていくとそれが何なのかがはっきりと見えてくる。
 それは白と黒からなる鉄の塊だ。
 石畳に膝を着くようにして佇む巨大な人を模した鉄の塊、重騎(グランデ・オプリータ)。
 それは所々が抉れ、折れ、そして胸から背にかけて大きな風穴が開いている。
 それは破壊の爪痕を纏っていた。
 光が止み、静まり返った広場に大破し朽ち果てた重騎が広場の中央で佇んでいる。


(1)記憶「五行師(バスター)」
 ざわめきに囲まれながら顔を上げる。
 眼前にあるのは朽ち果てた雌型重騎。その再現された記憶。
 重騎とは背にある棺桶型の部屋、書斎から重騎師(グランデ・カヴァリエーレ)が記乗することで動く機械。空を駆け、炎を断ち割る、軍隊のシンボル的存在。
 それが今朽ち果てた姿を晒している。私はあまり重騎については詳しくはないけれど、重騎が強い存在だということは知っているし、それがこんな壊され方をするというのは大規模な戦闘があったのだろうというのが予想が付く。
 眼前の黒と白のコントラストが見事で鋭角な翼を携えたそれは装甲服を何かに抉られ、翼を折られ、さらには胸から背にかけて熱量を持った何かで貫かれてしまっている。辛うじて人型を保っている状況。
 重騎に記乗するというのは、それと一体化するということ。つまり重騎の損傷は乗り手である重騎師(グランデ・カヴァリエーレ)にフィードバックされる。この損傷は致命傷となりえる。
「損傷を受ける前に記乗を解けていたらいいんだけど……」
 過去の重騎師を心配してみたりしながら、符を持つ手に力を込めて記憶を封じていく。
 周りを見ると私と同じように符をもった記憶師が何人か、そして重騎と私達を取巻く市民の列。ここまで大きな記憶が再現されるのは珍しいらしく一目見ようと押しかける人が絶えなくて、市役所の人達が整列を呼びかけている声が聞こえてくる。
 私達を取巻く人だかりのほとんどは好奇の眼差しをこちらに向けているが、一部では懐かしみとも悲しみとも取れる表情で重騎を見詰める人がいるのにも気付く。その多くは年配の方、古くからこの威尼斯に暮らす人達だ。
「この子は……そんなに昔のものと言うわけじゃないのかしら。だとするといつ……」
 威尼斯は古い町並みが多いために、車などの乗り入れが禁止されている。もちろん重騎なんてのは論外。重騎なんかが街中を走り回ったら崩壊しかねない。
「それでも、この子が駆り出されるのは……それほどの危機に瀕していたということ?」
 問いかけに答えてくれる人はいない。
 いつもだったらこういうお祭り事に顔をだすテオ爺はおらず、周りを警備している市役所の人達は若い面々が多い。昔のことを知る人は少ないだろう。
 疑問が解消されないのは気持ち悪いけれども、今は出来ることをして、後で帰ったら聞いてみることにする。
 記憶を封じ終えた符をしまうと、取り囲む人の列を超えてサンマルコ広場全体を見回す。
 大規模なアックア・アルタを明日に控えた今、営業している屋台や店はほとんどなく、代わりに市役所の作業班が水に満たされても活動できるようにと、櫓を組んだりゴンドラを陸に上げたりしていた。
 アックア・アルタによる障害は不安の記憶の再現だけではない。足場を浸す冷たい冬の海、それすら脅威となる。
「手際いいなぁ……。こういう有事の時だけっていうのもどうかと思うけど」
 普段の怠けた様子からは想像できない手際のよさで、積まれていた資材を片付けていく様子を見ながらちょっと感心する。いつもああならば素敵なのだけれど。
 そう思いながら彼らの働き振りを見ていると、急に周りの人々がざわめきだす。
 何事かと辺りを見回せば石畳の上を走る影、そして空を見上げる人々。
「空……?」
 釣られて顔を上げればそこにあるのは爛々と輝く太陽、白い雲、そして竜。
 そこにいたのは竜属では小柄な小竜(レッサードラゴン)、その記憶だと思う。
 竜は時折口を大きく開けて咆哮するが放たれる音は無い。過去の記憶からは音は伝わってこないから。
「最近多いなぁ……やっぱり皆不安に思ってるのかな」
 顔を下ろし、見回しても見えてくるのは現れた竜を好奇の眼差しで見詰める人達。表面的には皆普通に見えるけれども、今回のアックア・アルタに対する不安は拭いきれていないんだ。
「不安だから……威尼斯が不安だったときの記憶。妖物や暴漢が暴れてたときの記憶が再現されるんだもんね」
 しかし皆が好奇の眼差しで見詰めていられるのにもやはり理由がある。普段とは打って変わり、異様なまでに手際よく仕事をする市役所の面々が妖物の類の記憶を退治しているから。それ故に最初のうちこそ不安がっていた市民の皆も彼らの働き振りを見て安心感を得ているのかもしれない。
「でもどうするのかな……今回は空飛んじゃってるし。降りてくるまで待つのか、それともさりげなーく五行師部隊とかいるのか――」
 私の問いに答えたのは聞きなれた街の人達の声ではなく、初めて聞く声。
 大気を切り裂く咆哮、純粋な単音の詞。
『あああああああああああああっ!!』
 詞が大気を震わすのとほぼ同時に空飛ぶ竜を光が断ち切る。
 突然の出来事に誰も反応できずにぽかんと呆気に取られた表情を浮かべている。それは断ち切られた竜も例外じゃない。現実の威尼斯を見ていない過去の竜は何故自分の身体が二分されているのか納得できない様子で身を捩じらせたのち四散した。流体(エーテル)によって再現された記憶は致命傷を与えられて消滅する。
 放たれた詞の残響を聞きながら放たれてきた方を振り返る。
 そこには抜き身の神形具(デバイス)の剣を振り下ろした小柄な青年と布に包まれた長物を抱える長身の女性、そして各々布で来るんだ獲物を持つ集団が立っていた。

(2)「燕(ロンディネ)」
 先程の一団は明日に迫ったアックア・アルタに伴う災害に対処するために派遣された五行師(バスター)と風水師(チューナー)の一団だったらしく、慌てて駆けつけた市役所の面々と何やら話し合いをしている。
 竜を断ち割った青年と傍らにいた女性は、その一団からは離れて今は重騎の記憶を興味深そうに眺めながら周りを歩いている。重騎、竜に続いて現れた五行師に皆の視線が集まってるのを解していないのか陽気な表情で。
 かく言う私も彼と彼女の動向を目で追っているわけだけれども。
 彼らは重騎の周りを一周して戻ってくると何故か私の前で立ち止まり、
「ややっ、こんな所に天使さんの記憶がっ――」
 諸手を広げて何かを口走ろうとした青年の頭を傍らに立つ女性が手にした獲物で殴りつけた。どこか既視感を覚えて今ここにはいない二人のことを思い出す。
「なぁーにーがー天使さんの記憶がっ、よ。白々しい……どうみても現実の人でしょ」
 頭を抑えてうずくまった青年を見下ろしながら女性は嘆息。彼女はやれやれと呟きながら獲物を抱えなおすとこちらを向き直す。その顔に浮かぶのは青年の状況を無視したような笑みだ。
「初めまして……市役所の方、かな? 欧州連合から派遣された風水師隊のリーダーをやらしていただいてるルイーゼ=ブライトクロイツです」
 彼女はよろしく、と前置きをして手を差し伸べてきたので握手を交わしながら私も名乗りを上げ、
「初めまして……一応市役所所属の記憶師ということになっているエレナ=カンナバーロです。えーっと……そちらの方は大丈夫?」
 今更ながらに青年に声をかけようとするとルイーゼが握る手に力を込めながら手にもっと獲物を軽く振り、
「ああ、この馬鹿は気にしなくて大丈夫。むしろ静かでいいし」
「……っぅ、大丈夫なわけないだろっ! このデカ女っ!」
 立ち上がって抗議の声をあげた青年は再度振り下ろされた獲物の前に地に沈む。周りの野次馬から歓声が上がるとルイーゼが軽く手を上げて返すのを見ながら、皆誰かが倒れるのに慣れてしまってるなと苦笑。話が進まないので地面でのたうつ彼に手を差し伸べて起こしてあげる。
「ああっ、やっぱり天使さんはデカ女とは違ってやさしっ――」
「いや私は匪堕天だからどっちかって言うと優しくないイメージだし……、ってルイーゼさん。あんまりぽんぽん叩くと取り返しつかなくなるよー」
 物理的に黙らせようとするルイーゼさんにテオ爺の姿を重ねながら、青年を立たせてあげると自分よりも小柄であることに気づく。カルロさんのように大柄であっても、彼のように小柄であってもぽんぽん殴られる人は殴られるんだね。
「あいたたた……たくぽんぽん殴りやがって。あー……欧州連合から派遣された五行師隊のリーダーやってるクラウス=バーナーってんだ。よろしく、匪堕天の姉ちゃん」
 ようやくまともに言葉を交わした彼はこちらの手を握ると歯を見せる笑みを浮かべる。多分年はあまり変わらないのだろうけど、容姿と仕草から幼げな印象を受ける。ただ鼻にある傷を筆頭に所々ある傷跡は傍らに立つ彼女との関係の長さなのだろうかと思いながら二人を見やる。
「って……二人ともリーダーなの? じゃあ話し合いに参加したほうがいいんじゃ……」
 言葉と共に野次馬の外、話し合いをしている集団の方に目をやるがそちらはそちらでリーダーがいないにもかかわらず話し合いが進んでいるように思われる。というか市役所側も長であるテオ爺いないし。
「俺が率いる五行師隊は優秀だからな、わざわざ俺が参加しなくても適当に話をまとめてくれる」
「貴方が頼りないから下の子たちが苦労してるんでしょ……」
 自信満々に答えるクラウスと、対照的に嘆息しながら頭を抑えるルイーゼの姿はやはり二人が共に過ごした時間の長さを感じさせるものがある。テオ爺とジュリアみたいな。
「しっかしあれだな、本当にこの都市は面白い……こんなものがぽーんっと現れるなんて」
 クラウスの言葉を聞くと共に彼の視線の先を追う。彼が見上げているのは現出した重騎の記憶。
「あんまりこういう大きなのは出ないんだけど……最近ちょっと不安定だからかなー」
 子供の頃、そして最近また始まった威尼斯での生活を通じてもこんな大きな記憶の再現は初めて。もちろん先程空を飛んでいた竜ですら異例の大きさ。これが予想されている大規模アックア・アルタに対し積もる不安に寄るものだとしたら本番のときはどれほどのものがでるんだろう。
 不安に思う気持ちが顔に出ていたのか視線を二人に戻すと心配そうな表情をこちらに向けている。初対面な人に心配されるのは不味いなーと苦笑いしておく。
「まっ……安心してくれ、俺が着たからにはもう事件がおきてもさっきのやつみたいにぱぱーっと」
「正直あんたは余計なものまで壊すから安心できないんだけど……いい? ここは歴史的価値ある都市よ?」
「ちっちっちっ、犠牲を恐れてちゃ本領発揮できないぜ。それにそのときの為に風水師隊もいるんだろ?」
 壊すの前提なのね、と溜息をつくルイーゼと何故か誇らしげに胸を張るクラウスの二人を見て笑い、もう一度朽ち果てた重騎の記憶を見上げる。雌型重騎、つまり女重騎師がこれを駆って何かと戦い、そして命を落としたのだ。彼女は果たして勝って死んだのか、負けて死んだのか。
「知りたいけど……さすがに何時頃の話かわからないと記録調べるの大変だしなー……」
「ん? いや、こいつが動いてた時期は簡単に分かると思うぞ」
 へ?と自分ながらも間抜けな声を上げながら視線を落とす。分かるのか、という疑問を視線に乗せてしたり顔のクラウスを見る。
「あぁ……こいつ重騎オタクだから。会議すっぽかしたのもこれが理由だし」
「うるせ、せめてマニアといえ。――っと、何で調べるかは知らないが、こいつは確か第二次世界大戦末期に作られたイタリア製重騎。作ったはいいけど、扱えるやつが限られたバランスの悪い騎体だったらしくて試作機作って終わり。まあ翼持ってるくせに飛ぶためじゃなくて姿勢制御だけ。推進力だけ馬鹿みたいに強い強襲用重騎なんて女重騎師には使いにくいもんな」
 彼は咳払いを一つ、
「名前は『燕(ロンディネ)』、――凌駕紋章(スペラメント・エンブレーマ)は『進撃(アヴェンツァータ)』」



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凄い間が空いてしまって、文体とか変化してないか不安に思いながら第四話……前編(?)です。
容量の関係で1ページに載せられない可能性があるのできりのいいところで分割。

ようやくキャラが出揃ってきた感じ……でもアックア・アルタはすぐそこ。事態っていうのはこちらの都合とは関係なしに動くもの。
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