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本人の書いた小説・二次創作などを置いていこうかと。 現在は川上稔氏の著書、都市シリーズの二次創作の予定
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2006/02/23
不-変-動
 ――告げるもの。時の訪れを、危機の訪れを。


記録「サンマルコ広場北部、時計塔前にて」

 時計塔の前に人だかりが出来ていた。
 外周はカメラを持った観光客と思しき人々で、内周は作業服を纏った職人と思しき人々で形作られている。
 そして中央には二人の人影、一人は市役所の制服を着た大柄な男性、もう一人は黒い翼を背に持つ匪堕天の女性だ。
 人だかりの誰もが上を見上げている、時計塔に開けられた穴、そしてその奥に座る人影を。
 青年が傍らの女性に何かを呟くと、女性は頷きを持って応え、そして翼を広げる。
 飛翔。
 時計塔の針が11時54分を指していた。


(1)記憶「自動人形」
 
 翼を羽ばたかせ、一気に空へと舞い上がる。目的地は時計塔の側面に開けられた穴だ。それくらいの高さなら苦も無く到達できる。私が穴の淵に手をかけて中へと入ると、下から歓声が聞こえた。そんなに匪堕天が飛ぶのが珍しいのだろうか。
 翼を畳み、顔を上げるとそこには一体の牝型自動人形が穴の中に設置された椅子に座っている。彼女は新品の服を纏い、膝に毛布を掛けて静かに佇んでいる。瞳を伏せた彼女は、遠くから見れば椅子に座り眠っている女性のように見えるかも知れないが、近くで見ると自動人形であると気付かされる。彼女の肌はジュリアのそれとは異なり、一目瞭然で陶器で出来ているとわかる。それも所々朽ちかけているのが少し痛ましい。
 時計塔に収められている自動人形は「マラクーヤ」と名付けられ、マリィという愛称で親しまれている。彼女が生まれたのは今をさかのぼること500年以上前、威尼斯がまだ共和国だった時代の話だ。当時の最新鋭の技術を用いて作られた彼女は、威尼斯の住民に時の訪れを告げる仕事を与えられて時計塔に納められた。そして気も遠くなるような年月の間、彼女はここで時を告げ続けている。架空都市英国や創雅都市S.Fにいるという時を詠む自動人形と比べると性能としては劣るのだろうが、年季でみると彼女はトップクラスだろう。
 溜息を一つ、私はゆっくりと振り返る。見えてくるのは冬の陽光に照らされたサンマルコ広場だ。目線を下に向けると時計塔を取巻く連中と目が合う。何故か手を振ってきたので私も振り返して見る。もしかして今、私は見世物になっているのだろうかと、ちょっぴり不安に。
 このサンマルコ広場を見守り続けたマリィ、そして時計塔は500年もの年月を経て老朽化して行き、ついには機能に支障をきたすようになったのが数年前のこと。もちろん定期的に修理を行い、騙し騙し延命させてきたらしいが、時計塔の内部機構が寿命を全うしてしまったらしい。
 時計塔内部の機構を新しいものに入れ替えたりの作業を、今下にいる職人達が行なおうとした際に、500年もの間働いてくれたマリィももう休ませてあげたい、と思ったらしい。本当に良い人たちだ。
 それで彼らが彼女を運び出すために時計塔から切り離そうとしたところ、時を告げるという仕事以外で動こうとはしなかった彼女が初めて拒否の意思を示したんだそうな。耐用期限が切れた人工声帯の掠れた声で懸命に職人さん達に自分はここに居たい、と訴えたらしい。人に進化することの出来ない旧型の、道具として作られた彼女が、だ。
 これには職人さん達は困ったらしい。既に耐用期限も切れ、朽ちるのを待つばかりの彼女をどうするか。彼女を休ませてあげるか、彼女の意思を尊重してあげるか。
 そして彼等は決断した。彼女の意思を尊重して、朽ち果てる時が来るまでここにいさせることを。
 そう決めてからも苦難の連続だったらしい。なにせ500年も前に作られた彼女は、今の自動人形とは規格が違うために延命措置を施すのにも試行錯誤。作業中でも彼女は時間になったら時を告げようとする等……。
 そして紆余曲折を経て、改修作業を始めてから数年がたった今日、ようやく作業を終えて本稼動に移る。その感動的場面に特等席で立ち合わせてもらえることになったのだが、何やら私は市役所就きの記憶師という立場になっているらしい。確かにそうでもないとこんな特等席に上がるのは許されなかっただろうね。
 音を立てないように縮こまっていると、微細な音の変化に気付いた。
 今まで静寂を保っていたマリィが唇を窄ませ、吸気音を立てている。
 慌てて腕時計を見ると針は11時59分を指していた、時を告げる歌を唄うために彼女は準備を開始したのだ。
 気付くと下ではカウントダウンを始めている。観光客の列は好奇の眼差しを、職人の列は真摯な眼差しをそれぞれ彼女へ向けながら。私も固唾を呑みながら待つ、彼女が声を発するのを。
 時計塔の大きな針が、腕時計の小さな針が、カウントダウンの声が。
 0を指す。
 吸気音が止み、彼女は口を開き、歌が始まった。


(2)記憶「激励」

 市役所の講堂、壇上に立つと一同の視線が集まってくる。野郎共に見つめられても嬉しくないんだがよ。
 今、講堂の席はほとんど埋まっている。席に座るのは市役所の職員、実働部隊の面々だ。つまりここに威尼斯の抱える戦力が集中しているわけだな。物々しいったらありゃしねえ。
 今頃エレナと若造は時計塔でマリィの御披露目を見ている頃か。後で話を聞くとしよう、若造に焼きを入れながら。本当は俺が行きたかったんだが、この状況じゃしかたあるめえ。まあとっとと終らすことにしよう。
「ああ~……皆に集まってもらったのは他でもない。気付いてる奴もいるたあ思うが、そろそろあれが来るわけだな」
 講堂内に集まった面々が頷く。何人かは何のことかわからず頷いていやがるな、壇上から見てるとよくわかる。
「で、だ。それだけだったらいつも通り対処してもらえばいいんだがよ? 各国の速読暦(ファストリーダー)の連中が余計なことしてくれやがったらしくてな。何でも近い未来に威尼斯を破滅の危機に瀕するてえ内容の予言を連中そろって読んじまったから各国は大慌て。我先にと伊太利亜政府とうちに情報を通達してきたってわけよ。まったくっ心配性な奴らだな」
 取りあえず笑い飛ばしてみるが、誰も続くものはなし。俺が馬鹿みてえじゃねえか。
「まっ、この時期でもあり、その破滅の危機ってえのはあれのことに間違いねえって俺は考えている。威尼斯の野郎が周りの不安に呼応して、不安だった……過去の破滅の記憶を再現しやがる訳だ。基本的にはこの都市を肯定するが、この時ばかりはしちめんどくさくてかなわねえな。そろそろ祭だってえのによ」
 拳を作り、振り下ろす。音が講堂に響き、机の上の書類が揺れ、拳に痛みが走る。
「今回のは大きいぞ! 各国の馬鹿共が煽り、勝手に心配している所為で、威尼斯に漂う不安は留まることなく募り続けていやがる。何が出やがるかわかったもんじゃねえ、おめえら気合入れて準備しな!」
 啖呵を切った途端、講堂内の大気が揺れた。
 揺らすのは野郎共の叫び声、決意の意思が宿る咆哮だ。うるさいったらありゃしねえな。
 それを見て一先ず一安心だ。これなら有事の際、実働部隊の連中は不安を恐れずに動けるだろう。
 後は例年通り派遣されてくる奴らを激励して終わりか。
 しかし威尼斯は本当に難儀な都市だな。海に沈む未来が不安だからって、過去の不安を再現して現実に破滅をもたらすなんてよ。滅びの運命が怖いからって自害しようとすることはねえだろうに。
 

(3)記憶「告示」
 
 マリィの口から放たれるのは時を告げる歌。
 やや声が掠れているのにもかかわらず、綺麗な歌声だ。
 歌は60秒続く。時計の長針が動くまで。
「んむぅ……さすがにこんだけ近いとちょっとうるさいわね……」
 耳を軽く押さえながら、贅沢な不平を漏らす。彼女の歌声は充分な吸気を事前に行なったおかげか、最初から最大ボリュームだ。同じく時を告げる大鐘楼の鐘の音に負けないように、彼女は精一杯声を張り上げる。よくこんなに無理して唄って体を壊さないものね。
 さて職人達が譲ってくれた特等席だ、しっかりと見て、しっかりと記憶に残さないと。そう何度もあがらせて貰えないだろうし。
 歌を唄う彼女は、目を伏せて無表情。まるで御人形のようだが、彼女には意思があるという。時を告げる歌を唄い続けたいという意思が。作られた時に添付された仮初の意思だろうと言ってしまえばそれで終わりだが、私はそう思いたくは無い。身勝手な思いかもしれないけど。
 命令ゆえ、と決め付けてしまうのは悲しすぎる。
 60秒間の至福に身をゆだねるために、記憶を符に封じ終えると私は瞳を伏せ、聴覚に集中する。
 だけど、至福は60秒を待たずして中断された。
 不意にマリィの歌声とは異なる、機械的な警報が鳴らされる。
 今の今まで彼女の歌声に聞き入ってた人だかりにどよめきが生まれる。皆互いに顔を見合わせ、不安そうな表情を浮かべて。穏やかだった空気が徐々に張り詰めていく。
「これって……」
 疑問はすぐに解消される。15年前に何度も、ここ数ヶ月でも2度ほど聞いた音だ。
「第1警報……」
 呟きながら、遠く海を眺める。
 ここから見ると穏やかな海だ。とてもとてもあれが脅威になるとは思えない。
 しかし、第1警報が鳴らされたということは数日中にあの海が押し寄せてくる。威尼斯を満たすために。
 アックア・アルタだ。

 ――気がつくと歌を終えていたマリィが、また眠ったように佇んでいる。



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たった7分の間の出来事。
それだけ短い時間でも変わるときは変わり、500年という長い年月でも変わらないものは変わらない。
全ては確固たる意思ゆえでしょうか。

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