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本人の書いた小説・二次創作などを置いていこうかと。 現在は川上稔氏の著書、都市シリーズの二次創作の予定
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2006/02/12
再(開/会)
記録「サンマルコ広場、水上バス停泊所にて」

 空で輝く太陽に照らされたサンマルコ広場の船着場、一艘の水上バスが停泊している。
 マルコ・ポーロ空港からの便なのか、カメラや地図などを手にした団体が物珍しそうに「世界一美しい広場」と称えられたサンマルコ広場へ目線を向けながら下船していく。
 観光客の一団が途切れると、船内から大きな旅行鞄を肩にかけた女性が姿を現す。
 爛々と輝く太陽の下で、その存在を主張する漆黒の羽を携えた匪堕天の女性だ。
 彼女は眩しそうに頭上に手をかざすと、笑みを浮かべながら桟橋からサンマルコ広場へと足を進める。
 サンマルコ広場には多くの人影、先に降りた観光客はもちろん、住民、そして物言わぬ過去の住民達だ。
 その過去と現在が入り混じる光景を目にすると、女性は笑い声をこぼした。

(1)記憶「帰郷」

 波に揺れる船体から出ると急に視界が開ける。
 青い空、そしてサンマルコ広場が視界に飛び込んできた。
 サンマルコ広場には、時代錯誤な服装を着た過去の住民と、地図、カメラを片手に物珍しそうに歩く現実(いま)の観光客。そしてそれを囲むように聳える歴史的建造物。
 維尼斯で唯一、広場(ピアッツァ)と呼ばれるのがわかる気がする。
 桟橋の上からその光景を眺めていると記憶が甦って来る。子供の頃、ここから離れた時のことを。
 背後から水上バスの運転手のオジサンが「また乗るんかい?」と声をかけてきたので、頭を下げて応えながら桟橋を歩き出す。背にある匪堕天特有の黒い翼でひとまずアパートまでひとっ飛びで行こうかとも思ったが、それでは情緒が無い。15年ぶりの帰郷、せっかくだから歩いていくことにしよう。
 桟橋の上を歩き、人で賑わうサンマルコ広場に足を踏み入れる。
 威尼斯が伊太利亜に統合され、現在のような過去を再現する都市になって以来、人口は減少を辿る一方で現在は6万人ぐらいしかいないらしい。愛着があって住んでいる人、店を営んでいる人、市役所の人、そして私のような記憶師ぐらいなんだろうね。
 確かにところ構わず過去が再現され、年に数度洪水に見舞われていては住みづらい事この上ない。
 でも、今サンマルコ広場は賑わっている。共和国時代の建物が現存し、過去を再現する都市である威尼斯は観光・祝祭都市として発展を遂げたため、年中観光客が絶えない。そして観光客で賑わうと、威尼斯はその賑わいに呼応し賑わいの記憶を再現する。
 まだ人がいた頃の威尼斯を。
 見ると、観光客らしき人が市役所職員に注意を受けている。多分過去の住人にちょっかいでも出したんだろう。
 威尼斯の再現する過去は、己の記憶している情景を再現するためにまず大気中の流体(エーテル)で人の形を再現し、そこに仮の意思を添付する。電詞都市DT(デトロイト)にあるという贋作外殻(NPCボディ)のようなものらしい。あくまで外観だけを再現したもので、過去は現実を見ていないし、過去から現実に、現実から過去に声は届かない。
 再現された記憶は自分達のした行動を繰り返す。現実側からの障害、当時無かったものが設置されていたり、現実側からちょっかいを受けたりがあると何とかそれを迂回し元の行動に戻ろうとする。それを面白がり何度も邪魔する観光客が絶えないそうだ。
 少し嘆かわしい。
 その様子に溜息を漏らしていると、不意に轟音が大気を揺らした。
 威尼斯の誇る大鐘楼の鐘の音だ。
 広場の誰もが足を止め、顔を上げていた。
 鐘の音に驚いた現実の、そして過去でもそうだったのであろう鳩達が空ヘと羽ばたいていく。
 この光景は壮観の一言に尽きる。
 「世界一美しい広場」とはよく言ったものだと思う。
 鐘の音が鳴り止み、広場が賑わいを取り戻したら、とりあえず当初の予定通りにアパートに行くとしよう。15年前まで暮らしていたアパート、よくしてくれた管理人の御姉さんや、可愛がってくれた市役所の御爺さんは元気だろうか。御爺さんの方は15年前の段階で結構年老いていたから不安なんだけど。

(2)記憶「期待」

 部屋を掃除する手を休め、壁にかかった時計に目をやると、時計の針が2時50分を指していました。
 昨日送られてきたメールによると威尼斯に到着するのは2時、多少寄り道することを考慮に入れて、サンマルコ広場からここまでは4~50分程度です。そろそろ御出迎えのために1階に下りたほうがいいでしょう。
 メールの送り主、新しき入居者は15年前まで当アパートで暮らしていた方。当時8歳だった可愛らしい匪堕天の少女も、15年後の今では23の女性。彼女がどのように成長し、私の前に現われるのか期待と不安が入り混じったような感情で胸が膨らみます。
 ぐれていなければ良いのですが。
 15年前に威尼斯を両親の仕事の都合で出る際に、酷く嫌がった情景を鮮明に記憶しているため、一抹の不安を覚えてしまいます。それだけこの都市を気に入ってくださっていたととらえると、住民としては嬉しいものですが。
 掃除道具を片し、窓の外に目をやると、前の通りを向こうからこちらに向かって歩く人影。大きな荷物を肩にかけ、背には黒い翼、匪堕天の女性のようです。恐らくはあの子でしょう。
 その場で大きく深呼吸。
 落ち着いたところで御出迎えのために1階に下りるとしましょう。

(3)記憶「再会」

 足を止めると、建物を見上げる。
 目的地であるアパートに辿り着いたわけだが、サンマルコ広場からここまでの道、そして建物は15年前の記憶との差がほとんど無かった。まるで過去に戻ってきたような錯覚に陥ってしまう。
 懐かしい、生まれてから8年間を過ごしたアパートは昔のままそこにあった。多少、15年の歳月で風化した部分もあるだろうが、よく手入れされているためにそれも気にならない。
 ただ玄関前に設置された郵便受けにつけられた名札の数は昔より少なくなっている。徐々に住民が減少しているという事実を突きつけられているようで少し寂しくなる。
 胸に両手を当てて軽く深呼吸をすると、昔は顔の高さにあったドアノブに手をかけ、ゆっくり捻る。事前に着く時間を伝えておいたからか鍵はかかっていなく、錆び付いた音を立てながら扉は開いていく。
 扉が開いていくと視界に入ったのは一人の女性。肩辺りまでの白に近い銀髪のセミロング、そしてその下で微笑みを浮かべた顔はよく覚えている。管理人の御姉さんだ。挨拶をしようとして、違和感に気付き口を噤む。
 目の前の女性は確かに、記憶の中の御姉さんそのままだ。
 しかし今はその15年後、私だってだいぶ背が伸びるなど変化をした。子供から大人へ、ほどの変化はないにしても15年の歳月は人が変わるには充分な時間だ。
 つまり目の前にいるのは、
「再現された過去で御出迎え、か。威尼斯も洒落たことしてくれるわね~……」
 再会が先延ばしになったことに溜息をつきながら呟くと、目の前の彼女は目を弓なりに細め、
「いいえ、過去ではありません。私は現実(いま)ですよ?」
 予想していなかった反応に開いた口が塞がらない。何がどうなっているのだろう。
 私の反応を見て楽しむように微笑むと彼女は両手を広げ、
「ようこそ、エレナ=カンナバーロ様。当アパートの管理人を務めさせていただいている私、ジュリア=カミチアは貴方様を歓迎いたします」
 一礼。すぐさま顔を上げ、
「お帰りなさい、エリィちゃん。15年ぶりですね?」
 何がどうなっているかわからないが、目の前にいるのは確かに私の知っている御姉さんらしい。
 なら積もる話や聞きたいことは後回し、今私がここでいうべき言葉はただ一つ。

「――ただいま、ジュリア御姉さん」

                      
                           GoToNext



後書き。

 というわけでプロローグ、です。
 一人称視点で書くことに慣れてないため試行錯誤をして書きました・・・。チェックに付き合ってくれた友人にはいくら感謝しても足りません。
 作中の用語はまとめて用語辞典見たいのを作ったほうがよさそうですね。都市シリーズを一応読んでる私はわかっても、読んでない人にはわからない単語が多いですし。
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