FC2ブログ
本人の書いた小説・二次創作などを置いていこうかと。 現在は川上稔氏の著書、都市シリーズの二次創作の予定
SS
ページ下(メニュー)へ▼
--/--/--
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2006/09/03
いつも通りの特別な日
 爛々と輝く太陽の下、造られた暑さにつつまれる島々がある。
 人類が第二の故郷に選んだ水の惑星アクア。
 その豊かな海に浮かぶ島のひとつ、水の都ネオヴェネツィア。
 街の各所を舟乗り達が行きかう都市の一角。
 黒のゴンドラを駆り、練習に励む水先案内人の少女達がいる――

*

「…………?」
 手袋に包まれた両手でオールでゴンドラを漕ぐ少女は怪訝そうに後ろを振り返る。
 彼女の視線の先には彼女と同じくゴンドラに乗る二人の少女。彼女と異なる点を上げるとすれば、少女らの手は片方しか手袋に包まれていない。
 二人の少女達は少女が振り返るとあわてて取り繕ったような笑みを浮かべる。その不自然な笑みにさらに少女は怪訝そうに眉を顰めるが、追求しても仕方ないと結論付けたのか溜息をついてから前を向きなおした。
 彼女らはネオヴェネツィアの顔とも言える水先案内人――の見習い。
 手にした手袋と、彼女らの乗る黒いゴンドラが見習いの証。
 両手袋「ペア」が見習い、そして半人前と認められると片手袋「シングル」、晴れて一人前となれば手袋なし「プリマ」という階級付けである。
 両手袋の少女は前を見据えるとオールを持つ手に力を込めようとし、
「ね、ねぇ~アリスちゃーんっ」
 後ろから響く間延びした声に阻まれた。
 アリスと呼ばれた少女はオールに添えていた手を眉間に当て、嘆息しながら再度振り返る。
「……なんですか灯里先輩?」
 振り返った視界に映るのは先ほどよりは幾分自然な笑みを浮かべた片手袋の少女。
 灯里はアリスの不機嫌そうな声を聞いて、逡巡するかのようにたじろいだがすぐに笑みを戻し、
「あのね、あのね? 今日は暑いしそろそろ休憩とかどーかなーと」
「あのですね、灯里先輩……休憩も何もぜんっぜんっ練習に身が入ってなかったじゃないですか。藍華先輩も」
 はわわ、とたじろぐ灯里の隣、何か言いたそうにしている片手袋の少女にもアリスは目線を向ける。
 藍華と呼ばれた少女は急に話が振られると困ったように頬を掻くが、すぐにわざとらしい笑みを浮かべ、
「もぉー灯里が練習に身が入ってないのはいつものことでしょ? 気にしない気にしない~」
「いつものことながらでっかいありえないです。といいますか、今日は藍華先輩もですよ?」
「あっはっははー……まっ、そういうわけで向こうの桟橋で休憩、競争よ~」
「あっあっ、待ってよ藍華ちゃん~~~っ」
 先ほどまでの様子とは打って変わって片手袋の少女達は初速から勢いを持ってアリスの脇を抜けていく。急な出来事に対応できなかったアリスが前を向きなおした時には少女達はすでに遥か前方。藍華が指差した桟橋の当たりまで進んでいた。
 少女達の変わり身の早さに呆れたのかアリスは一度唸り、しかし顔を上げると少女達を追うべくオールで水を掻いた。

*

 アリスが桟橋までたどり着きパリーナにゴンドラを固定し終えた頃には片手袋の少女達は桟橋に上がり、こちらに尻を向けて何やら作業を行っている様子だった。
 その様子を不審そうに見ると、アリスは風にはためく髪を抑えながら桟橋に上がった。
 桟橋に上がったアリスを出迎えたのは――

  ――乾いた破裂音と火薬の匂い。

「えっ……えっ?」
 急に響いた音にあっけにとられて対応できないアリスの眼前には満面の笑みを浮かべる二人の少女と紙ふぶき、そして彼女達の手にはクラッカーが握られていた。
「HappyBirthday♪ だよ~アリスちゃん~っ」
 幸せそうに笑う灯里がアリスの手を自分の両手で握るが、
「はわわ、あちちっ……!」
 破裂したてでクラッカーが熱を持っていたのか握ろうとした手はすぐ離される。
「あぁーもう、何やってんのよ灯里~……。いいから手伝いなさいって」
 派手に痛がり、手に息を吹きかける灯里の向こうでは藍華が海から何かを引き揚げているところだった。
 きょとんとした表情のままアリスが二人の様子を見ていると彼女らが口を紐で結わえたビニール袋を引き揚げ、袋をあけると、
「西瓜……ですか?」
「そっ、西瓜とお茶を入れた瓶をビニールに入れてあらかじめここで冷やしておいたのよ」
「本当はケーキにしようと思ったんだけど、この暑さだとちょっと痛んじゃいそうだったから急遽変更して西瓜にしたんだよー。暑いときに冷えた西瓜食べると美味しいもんね~……あぁ~……」
「えっと……何故今日に限って……?」
 アリスの言葉に涎を垂らしていた灯里とそれを止めようとしていた藍華の二人が沈黙する。二人は一度顔をあわせて二言三言相談した後、抱えていた西瓜を下ろしアリスに詰め寄り同時にまくし立てる。
「ちょっとちょっと後輩ちゃん……大丈夫? やっぱりこの暑さに頭やられちゃってる? 勘弁してよね、ボケキャラは灯里だけで間に合ってるから」
「ほら、さっき言ったでしょ? HappyBirthday♪って。今日は9月1日、アリスちゃんの誕生日……ってひどいよ藍華ちゃん~っ」
「あ……」
 言われてようやくアリスは気付く。二人が何故今日いつもと違ったのか、そして自分が自分の誕生日を何故気付けなかったのかを。
「えっと……まずお二人ともお祝いしてくれてありがとうございます。あと藍華先輩、暑さにやられたわけじゃないのでご心配なく……ただ……」
「「ただ?」」
 二種の声がステレオで響く、アリスは小さく喉を鳴らして、
「ただ……先輩達と練習するのが習慣づいていて一緒にいるのが当たり前で、いつも通りの当たり前の日々を過ごしてると思ってたから……今日が特別な日だと思い出せませんでした」
 自分の言葉に自分で恥ずかしさを感じながら、アリスは搾り出すように言葉を続けた。それを聞いた二人は一度顔を見合わせた後、小さく声を立てて笑いだす。その笑い声に恥ずかしさを煽られたが、その中で一人灯里が笑いを止めて両手を広げると、
「違うよアリスちゃんっ。いつも通りの当たり前の日々を過ごしてると思ったから特別な日を忘れてたんじゃなくて、いつもがいつも特別な日だから幸せすぎて気づけなかったんだよ!」
 一層恥ずかしくなるような言葉を吐いた。
 三人は一斉に沈黙、灯里だけが笑顔の中他の二人はうっすらと頬を赤らめながら互いを見て、
「こぉーら灯里ー恥ずかしい台詞禁止ー」
「ええぇぇーっ!?」
 いつも通りの掛け合いをする二人を見てアリスは苦笑、そして吹っ切れたような表情で口を開き、
「でも……確かに偶然知り合えた先輩達とこうして誕生日を一緒にできるなんて……でっかい幸せ、ですよね」
 掛け合いと止めた二人は片や輝くような笑みを、片や裏切りものを見るようなやるせない表情を浮かべていた。そのやるせない表情を浮かべた藍華は眉間に手を当てて一度嘆息した後、
「後輩ちゃんも恥ずかしい台詞禁止ーっ! ほらほら、早く西瓜切り分けるわよーせっかく冷やしておいたのに、こんな放置してたら茹でスイカになっちゃうわ」
「ええっそれはやだよ、早く切ろう藍華ちゃんっ」
「……そうですね、私もそれは絶対に嫌です」

 太陽に照らし出され、残暑厳しいネオヴェネツィアに潮騒の音と少女達の笑い声が響いていた。
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。